日本から飛び出し、異国の地での生活を通して始めて自分と向き合うことになる人は多いのではないでしょうか。仕事をするのでも、勉強をするのでも根源となる存在は「私」です。
今回は日本をバックグラウンドに育ってきて、将来海外で活躍したいと考えている人におすすめの2005年のベストセラー「国家の品格」を紹介します。
藤原雅彦さんは1943年に生まれ、東京大学を卒業され、現在はお茶の水女子大学名誉教授を務められている数学者です。過去にはコロラド大学で助教授として活躍されていたり、ケンブリッジ大学で研究活動を行っていたりと、数学という専門分野を持ちながら、自然科学で最も重要なのは美しいものに感動する「情緒力」で、数学的なテクニックなどではないと言い切り、論理よりも情緒を重視する姿勢は非常に話題になりました。
この作品の冒頭にこんなセリフがあります。
【戦後、祖国への誇りや自信を失うように教育され、すっかり足腰の弱っていた日本人は、世界に誇るべき我が国古来の「情緒と形」をあっさり忘れ、市場経済に代表される欧米の「論理と合理」に身を売ってしまったのです。
日本はこうして国柄を失いました。「国家の品格」をなくしてしまったのです。現在進行中のグローバル化とは、世界を均質にするものです。日本人はこの世界の趨勢に敢然と戦いを挑むべきだと思います。】
この発言の意図がどういうことなのか、いくつかの観点から見てみましょう。
① 論理だけでは世界が崩壊する
この資本主義には論理が一番であるという漫然として通説があります。これは誤りです。なぜなら「人を殺していい」という論理と「人を殺してはいけない」という論理は両方作ることができます。しかし、人を殺してはいけません。理由は、「駄目だから駄目」なのです。
重要なものは押し付けなければなりません。会津藩には「什の掟」というものがあり(詳しくは本書で確認してください)、弱いものをいじめてはなりません、というものがあります。果たしてなぜでしょうか。答えは、「駄目だから」です。そうして作り上げてきた価値観が、小国日本が日清戦争や日露戦争で勝利するきっかけになり、ゆくゆくは世界2位の経済大国に成長することができる価値観を形成していたのです。
② 武士道の復活
論理を重んじることは日本の風土にそもそも適していません。本書の中で、武士道とは様々な考え方がまじりあって形成されているものの、最も中心にあるのは日本古来の土着の考え方です。万葉時代、もしくは縄文時代から「卑怯なことはいけない」「大きなものは小さなものをやっつけてはいけない」といった皮膚感覚の道徳観や行動基準を持っていたのではないかと言われています。新渡戸稲造は武士道を著し、世界で最も尊敬される人物の一人になりました。それは、「敗者への共感」「劣者への同情」など、惻隠を基本として行動を取っていたからです。現在、市場経済による弱肉強食の世界が広がっていますが、人として大切にするべきは武士道のような精神的規律なのではないかと思います。
③ 情緒と形とグローバリゼーション
人は短い論理が大好きです。国際化の世の中である→一番使われるのは英語→小学生から英語を勉強するといったものです。しかし、これを行うと物事を深く考えられなくなります。中身のない話を延々とする人を生み出します。物事を考えるのはいつだって母国語、国語なのです。世界のエリートは夏目漱石のこころや、縄文土器、弥生土器の話を好みます。英語が話せてもこれは説明できません。英語を話すことができることが、日本全体で目指すべきグローバル人材なのでしょうか。
答えが1つであると言われる数学の世界ですら情緒を重視しています。勿論ある一定の論理性は必要です。しかし、数学的な独創性などは、偏差値や知能指数よりも重視されているといいます。これに気付かず、知識だけ詰め込んでも仕方がありません。
国際人とは誰でしょうか。英語が堪能な人なのでしょうか。確かに、今世界でビジネスを行うとなると日本語ではなく英語の方が圧倒的に伝わるでしょう。しかし、それは基礎なしには達成されません。
その基礎とは武士道精神や、日本の歴史などを含めた教養を持つことだと思います。またこの教養は一般的な勉強のみならず、小さいころの遊び、友人関係など広域に及ぶものです。
本書で紹介されている1つは「読書」です。資本主義の論理では本を読んでも金にならない→読書をしない。という論理がまかり通っています。しかし、若者特有の感性があるうちに名作をたくさん読み、すべての土台となる「情緒と形」を鍛え、世界に羽ばたいてほしいと思います。
海外インターンシップでも英語は必須ではありません。なぜなら、どう話すかではなく何を話すかを見られているからです。もし英語が不安で一歩踏み出せない人がいるのであれば、ぜひ海外で経験を積んでいる人に相談してみてはいかがでしょうか。
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